Project.7
koyasan workshop 2020
高野山における“まちづくり学習”の実践 2020

Action / 2020 / KOYASAN
地方小都市の多くでは地域の次代の担い手として期待される若い世代の人口流出が続く状況にあって,まちづくりを担う人材をどのように育成するかが大きな課題となっている。このような状況への対応として,全国の小中学校ではまちづくり学習を実施するところが少なくない。そうしたまちづくり学習では,子どもたちのまちへの関心の醸成や住民参加の促進,まちづくりを進める上で必要となる知識やスキルの習得などが期待されている。そうした中,世界遺産を有し観光地として著名である一方で近年人口減少が続く高野町の高野山中学校では,総合的な学習の時間に実施される「ふるさと学習」において,新たにまちづくり学習に取り組むことになった。

ふるさと学習の実施経緯
和歌山県北東部に位置する高野山は,真言密教の根本道場である「壇上伽藍」や,空海の御廟である「奥之院」をはじめとする世界遺産の構成地区を中心とした仏教都市であり,年間120万人の観光客が世界中から訪れる地域である。高野町は「ふるさと学習」の充実を重要な教育政策の一つに掲げ,2024年の高野山小学校との小中一貫校化を念頭に小学1年生からの9年間で継続的に地域について学ぶカリキュラムの設計を進めている。高野山中学校において1年生を対象に実施されてきた「ふるさと学習」は,担任教員によって内容が異なるものの,いずれも高野山の歴史や伝統産業を知るための調べ学習を中心とした内容であった。2020年度に1年生の担任教員となる教員A は,この「ふるさと学習」において「高野山のまちの未来を考える」ことをテーマとしたまちづくり学習の企画を検討する。その際,相談を受けた筆者が教員Aとともにまちづくり学習の企画・実施を行うことになった。

ふるさと学習の企画内容
高野町が進める歩きやすいまちへの環境整備を受けて,筆者らは「15年後の高野町がどうなっていて欲しいか提言しよう」をテーマに設定した。具体的には,高野山に点在する魅力的な公共空間を「自分たちはどう使いたいか?」や,「観光客は高野山のまち並みをどのように感じ,高野山に何を求めているか?」を生徒たちが考え,「高野山の未来の都市空間」をプレゼンテーションする内容である。さらに,著名な観光名所ではなく「あまり知られていない魅力的なスポット」に焦点を当て,それらと観光名所をつなぎ住民や観光客が歩いて楽しめるまちづくりをサブテーマに設定した。授業は,ステップ1:アイディア作り(5時間),ステップ2:フィールドワーク(12時間),ステップ3:まちの未来構想(5時間),ステップ4:未来構想の発表(7時間)の4つのステップに分けられ,計18回・29時間にわたって実施することが予定された。

Step1:まちの良くしたい場所を考えよう
生徒ら9名が3組に分かれ「高野山の中で良くなって欲しい所」「そこで人々が楽しめるようにするアイディア」を検討するグループワークに取り組んだ。グループワークの前には,筆者が高野山の歴史的景観の保全とまちづくりについてレクチャーを行っている。しかし,いずれのグループも漠然としたアイディアに留まったため,2度目のワークでは生徒らが身近な通学路にある「良くなって欲しい場所」を地図に描き,「そこで住民や観光客が楽しめるようにするための空間的な工夫を考える」という手順を踏んだ。なお,2度目のワーク後には町長が高野町のまちづくり政策に関するレクチャーを実施している。

Step2:まちなかでアイディアを考えよう
生徒らが実際の都市空間を身体で把握するために約100分間×3回のフィールドワークに取り組んだ。フィールドワークでは,各グループの提案内容をもとに筆者らがあらかじめ選定した3つの対象地(金輪公園・弁天公園・観音堂がある駐車場)において,生徒らが現地でスケッチ表現により空間利用のアイディアを検討した。フィールドワークに取り組むにあたって生徒らは,筆者より歴史的空間の継承という視点から対象地の解説を受けている。

Step3:まち全体の未来計画を考えよう
生徒らが生徒同士の議論に基づきまちの未来像を描くグループワークに取り組んだ。その内容は,住民や観光客が新たな高野山の魅力を発見できるように,フィールドワークの各対象地と観光名所を動線でつなぎ,人々がまち全体を歩きたくなるアイディアを検討するものである。その際,筆者らは生徒らに対しまち全体に視野を広げ面的なアイディアに発展するように助言を与えている。

Step4:未来計画を町長さんに発表しよう
生徒らがこれまでに準備したプレゼンテーションの構成やシナリオを修正し,最終成果物を学内の学習発表会や友好都市の中学生との交流会等で発表した。ただし,当初予定された町長への提言は準備の時間が確保できなかったため実施せずに終わった。

ふるさと学習の成果
生徒は,筆者によりあらかじめ設定されたテーマである観光名所を結ぶまち歩きの拠点のアイディアについて,1年生全員で一つの提案を作成し,それをイラスト表現による3分間の動画にまとめた。生徒は,ステップ1において観光客の訪問先が著名な観光名所に偏りまちを歩く人が少ないという地域課題を共有し,神社,金輪公園,弁天公園,観音堂,商店,公民館などにおける「場づくり」のアイデアを議論した。ステップ2では,そのうち金輪公園,弁天公園,観音堂がある駐車場における空間改善のアイディアとして,仏塔や社の景観向上のための石畳参道の設置や,集客・一定時間滞在を目的とした屋台や土産物店,ベンチの設置などを検討した。そして,ステップ3において3カ所の対象地をまち歩きの拠点とした面的な都市デザインのアイディアに発展され,シェアサイクルや社寺スタンプラリーの拠点設置などの提案を最終成果物として取りまとめた。
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